反転増幅回路と非反転増幅回路の違いを動作点と入力インピーダンスの観点から考える

オペアンプの反転増幅回路と非反転増幅回路の違いって,位相(極性)の違いと抵抗による増幅率の決め方だけでしょうか.増幅率を決める式からだけでは見えてこないその違いを「動作点」という観点と,「入力インピーダンス」という観点から考えてみる.

反転増幅回路と非反転増幅回路の概要

オペアンプを使った反転増幅回路と非反転増幅回路は図のとおりである.この回路における動作の概要は,以前の記事「オペアンプの反転増幅回路・非反転増幅回路の動作を理解する - エンジニア知恵袋 ~チャンスくんをつかまえろ~」を参考にして頂きたい.

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反転増幅回路と非反転増幅回路

それぞれの回路の入出力特性は以下のとおりである.

  • 反転増幅回路:  \displaystyle V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}
  • 非反転増幅回路: \displaystyle V_{out}=\left (1+\frac{R_2}{R_1}\right )V_{in}

 この式を眺めていると,反転増幅回路と非反転増幅回路の違いは,位相(極性)の違いと抵抗による増幅率の決め方,と答えることになる.それ以外には?と聞かれたら答えられるだろうか.本記事では,「動作点」という観点と,「入力インピーダンス」という観点からその違いを以下述べる.

動作点の違い

以前の記事「オペアンプの反転増幅回路・非反転増幅回路の動作を理解する - エンジニア知恵袋 ~チャンスくんをつかまえろ~」でも述べた通り,オペアンプの負帰還回路では,仮想短絡という考え方ができ,オペアンプは反転入力端子(ー端子)と非反転入力端子(+端子)が同電位となるように動作する.

したがって,下図で示すように,反転増幅回路における点Pは回路の基準電位(回路GND)となり,非反転増幅回路における点PはV_{in}となる.

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反転増幅回路における仮想短絡

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非反転増幅回路における仮想短絡

では,V_{in},点P,V_{out}の関係をそれぞれ少し抽象的な絵で表現してみる.

反転増幅回路の動作点

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反転増幅回路の動作点のイメージ

反転増幅回路の場合,動作点は常に回路の基準電位となる.基準電位を軸としたシーソーのイメージで,入力電圧V_{in}が変わったとしても軸すなわち動作点Pは変わらない.動作点が基準電位で固定であるため,電気的に安定した動作が可能となる.これは,反転増幅回路の大きなメリットである.

非反転増幅回路の動作点

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非反転増幅回路の動作点のイメージ

非反転増幅回路の場合,動作点Pは入力電圧V_{in}そのものである.これが何を意味するのか.反転増幅回路では入力電圧に関係なく動作点は電気的に安定している基準電位であったのに対して,非反転増幅回路では常に動作点が入力電圧に合わせて変化するということである.直流信号あるいは低周波信号の場合,これは殆ど問題にならず,反転増幅回路でも非反転増幅回路でも同様の特性が得られるだろう.しかしながら,高周波信号,スルーレートが非常に大きい場合においては,非反転増幅回路の動作が不安定となることがある.これは,非反転入力端子とさらにその周辺が入力電圧によって電気的に大きく振られるためである.非反転増幅回路では,下図のように入力端子の分布容量が全て入六の負荷となり,信号源のインピーダンスと分布容量によって,信号の減衰や位相が回って動作が不安定となるのである.

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非反転増幅回路における信号源インピーダンスと分布容量の影響

上記のような反転増幅回路と非反転増幅回路の違いから,動作点という観点では動作点が基準電位の反転増幅回路の方がメリットがある.反転増幅回路は,この動作点が基準電位であることによって,高周波回路における増幅回路への適応や,応用回路としてI-V変換回路やlog回路など,反転増幅回路でしか実現できない応用回路が多数ある.

入力インピーダンスの違い

次は,反転増幅回路と非反転増幅回路の入力インピーダンスの違いについて述べる.ご存知の通り,理想的なオペアンプの入力インピーダンスは無限大で,入力インピーダンスが大きければ,測定において測定対象へ影響を殆ど与えずに測定が可能となる.では,反転増幅回路と非反転増幅回路では入力インピーダンスがどう違うのか見てみよう.

反転増幅回路の入力インピーダンス

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反転増幅回路の入力インピーダンス

反転増幅回路では,点Pは回路の基準電位となるため,R_1が入力インピーダンスとなってしまう.理想的なオペアンプの入力インピーダンスが無限大であるのに対して,反転増幅回路の入力インピーダンスR_1で決まってしまうため,この入力インピーダンスを高くしづらいということがある.入力バイアスによって電流がR_1に流れることえ発生するオフセットの問題や,増幅率を大きくしたい場合はR_1を小さくしなければならず,この場合入力インピーダンスも小さくなるため,信号源の出力電圧を正確に測定することが難しくなる.すなわち,反転増幅回路は高い精度を要求される電圧測定などにはあまり向かないということになる.

非反転増幅回路の入力インピーダンス

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非反転増幅回路の入力インピーダンス

では,非反転増幅回路ではどうだろうか.この場合,入力V_{in}オペアンプの非反転入力端子にのみ接続されている.したがって,この場合の入力インピーダンスオペアンプの入力インピーダンスそのものであり非常に高い.現実的にも,もちろん無限大ではないがGΩ(ギガオーム)以上の大きな値のものが多い.さらに,非反転入力端子への電流の流れ込み(入力バイアス電流)は非常に小さく,CMOSオペアンプの入力バイアス電流はpAオーダーであり,測定において測定対象へ影響を与えずに測定することが可能となる.これは,以前記事で紹介した計測の基本原則4「測定の測定対象への影響を十分に考慮する」にかかわる部分であり,その観点において,非反転増幅回路は高い精度が要求される場面で非常に有用であることがわかる.(参考記事:「計測にあたっての基本原則」を忘れないために書いておく - エンジニア知恵袋 ~チャンスくんをつかまえろ~

まとめ

反転増幅回路と非反転増幅回路の違いを「動作点」と「入力インピーダンス」という観点から述べた.

反転増幅回路は動作点が基準電位であるため電気的に動作が安定しており,高周波回路や様々な応用回路によく使用される一方で,入力インピーダンスをあまり高くできないというデメリットがあることを述べた.

非反転増幅回路は,動作点が入力電圧によって振られるために,特に高周波回路などでは動作が不安定になる可能性がある.だが,非常に高い入力インピーダンスを確保できるため,精度の求められる測定のおいてはよく用いられる.

参考文献

一部,絵としてどう表現するかという個所で,参考にさせて頂きました.

・中谷 隆之, “アナログ基礎:オペアンプ編”, https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/lecture/2018-6-6opamp.pdf.

 

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