オペアンプにはシグナル・ゲインとノイズ・ゲインという考え方があるのをご存じだろうか.もしかすると学生の方々は「信号と雑音で増幅率が違うの??」なんて驚かれるかもしれない.筆者も学生の頃,大学の講義の中では学んだ記憶がなく,社会人になってオペアンプについて学びなおした際にその考え方を知った.本記事では,非反転増幅と反転増幅の基本回路を例に,その考え方を纏めておく.
反転増幅回路と非反転増幅回路
オペアンプの反転増幅回路と非反転増幅回路の基本的な動作については別の記事で纏めているので参考にして頂きたい(オペアンプの反転増幅回路・非反転増幅回路の動作を理解する - エンジニア知恵袋 ~チャンスくんをつかまえろ~).
この記事の中でも,反転増幅回路と非反転増幅回路の入出力関係は,教科書でもお馴染みの以下の式となることを述べた.
- 反転増幅回路:
- 非反転増幅回路:
この回路では,とがゲイン(増幅率)であるというこはどの参考書にも載っている.実は,これがシグナル・ゲインである.学生がみんな大学の講義で学んだり,参考書で見るのはだいたいがシグナル・ゲインを指している.では,ノイズ・ゲインとは何なのか.
ノイズ・ゲインの表し方
ノイズ・ゲインとは「オペアンプの入力換算ノイズが出力に現れる量について,このときのノイズの増幅率(ゲイン)」のことを指す.この入力換算ノイズというのはオペアンプの特性を表す一つで,データシートにも記載があるが,オペアンプ内部で発生したすべての雑音について,入力で発生したものとして換算されたものである.故に,入力換算ノイズと呼ばれる.
ノイズ・ゲインの表し方
先に簡単にノイズ・ゲインがどうやって表されるかを述べると,以下の式のとおり,ノイズ・ゲインは反転増幅回路でも非反転増幅回路でも,回路を非反転増幅回路とみて計算することができる.
- 反転増幅回路のシグナル・ゲイン:
- 反転増幅回路のノイズ・ゲイン:
- 非反転増幅回路のシグナル・ゲイン:
- 非転増幅回路のノイズ・ゲイン:
このように考え方は非常にシンプルであり,入力換算のノイズが出力にどのように表れるのかは,反転増幅回路であっても非反転増幅回路であっても,非反転増幅回路として回路を見て考えれば良い.
ノイズ・ゲインが非反転増幅回路として計算できる理由
ノイズ・ゲインが非反転増幅回路として計算できる理由は,オペアンプの入力換算ノイズというのが,非反転入力端子に加わる電圧源としてモデル化できるから,である.これを少し言い換えると,以下の図に示すように,入力端子を全て回路の基準電位(回路GND)へ接続して,赤い丸印に電圧源があるとするため,非反転増幅回路でも反転増幅回路でも,非反転増幅回路して見ることができるのである.
上図のように表現してみると,入力換算ノイズというのが,非反転増幅回路としてモデル化できて,反転増幅回路でも非反転増幅回路でも,ノイズ・ゲインがとして表される理由がわかると思う.
ノイズ・ゲインの適用
ノイズ・ゲインが適応できるのは,入力換算ノイズだけでない.その適用は,以下のようなところである.
- 入力換算ノイズの出力に現れる大きさの計算
- オフセット電圧が出力に現れる大きさの計算
- 回路の周波数特性の計算
入力換算ノイズだけでなく,オフセット電圧についてもノイズ・ゲインの考え方で計算しなければならない(筆者も最初これを知らず,シグナル・ゲインで計算していた…).
また,本記事では詳細は省略するが,実はノイズ・ゲインから回路の周波数特性も計算できる.これについては,参考文献[2]を参照頂きたい.
まとめ
色々と述べたが,ノイズ・ゲインの考え方は,反転増幅回路でも非反転増幅回路でも,シンプルに回路を非反転増幅回路として見れば良いということだけをまずは覚えておけばよいと思う.
参考文献
ANALOG DEVICESのWebページと石井さんの記事を参考にさせて頂きました.
[1] Noise Gain vs. Signal Gain | Analog Devices
[2] 石井 聡, "減衰型構成アンプでのノイズ・レベルや位相余裕はどう考えるか", https://www.analog.com/media/jp/landing-pages/WEB_Lab/TNJ-021.pdf