【読書メモ】「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

あけましておめでとうございます。大変ご無沙汰してしまいましたが、久しぶりの雑記ブログの更新です。

筆者は、2019年4月まではエンジニアとしてセンサの開発や電気回路設計なんかを業としていたのだが、新しい新規事業開発のリーダーを任せてもらえることになり、プライベートでも趣味の電子工作なんかは一旦我慢して、今日まで日々の業務に必要な知識なんかを習得することに一生懸命になっていた(社会課題の本質を読み解く、市場環境を把握・予測する、そこから事業戦略を構築し検証していく、しかもリーダーとして…なんてことは0603抵抗器の半田付けを得意げにやっていた筆者からは本当に初めてのことだらけだった…)。

そして忙しいことを言い訳に、本ブログの更新もしばらく滞ってしまった…が、年末年始ということで、少しゆっくりとしながら本を読んでみると、案外共感できるものや得るものがあったような気になっている。せっかくなので、久しぶりのブログ更新として読書して得た知見などをメモとして残しておこくことで、自身の復習と頭の中の再整理とする。

書籍「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明 


「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

  • 書籍名:「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明
  • 著者:伊神 満(経済学者、イェール大学准教授)
  • 出版社:日経BP
  • 出版年月:2018年5月
  • 個人的書評:★★★★☆(4/5)
  • 内容概要と感想:本の内容としては、2つの論点「一時代を気付いた勝ち組たちがなぜ新時代の競争に出遅れがちなのか」「このジレンマに打ち勝つためには何をすべきか」に対して経済学的な仮説とアプローチを持って検証している。非常に読みやすく、集中すれば3〜4時間程度で読み切れる文量。経済学に疎い筆者でも理解しやすいように、様々な事例を紹介しつつ、また様々な例えを入れつつ解説してくれており、また経済学的なアプローチとはどのような手法でどのような手順で進めるかについても、全体が理解できるように記述されている。この本をもとに何かスキルが身につくというものでは無いが、そこそこ大きな企業で働いていて、イノベーションに何かジレンマを感じている人には、経済学という観点での1つの知見として、ぜひ一度読むことをおすすめしたい書籍。

 イノベーションのジレンマの正体(経済学的な解明)

 本書では、以下3つの経済理論が重要であると説明している。

  1. 置換効果:新製品を市場投入した場合に、既に市場参入している企業にとっては、新製品が旧製品に単に取って置き換わるだけの可能性がある。つまり、大変な労力をかけて新製品を開発・市場投入しても、利益が取って代わる、すなわち共喰いする分、利益は大して増えない可能性がある。
  2. 抜け駆け:競合は少なければ少ないほど利益が大きくなる前提では、既に市場参入している既存企業ほど新製品や新技術を買い占めて、新参企業の市場参入を未然に防止しようとする。イノベーションに対しては置換効果はネガティブな要素であるのに対し、抜け駆けはむしろポジティブな要素として働く。
  3. 能力格差:本書では、既存企業と新参企業との研究開発能力の差として定義されている。研究能力の差が1つ目の論点「既存企業が新時代の競争に出遅れがちなのはなぜか」にどれだけ寄与するのか。研究開発能力の差によって、置換効果や抜け駆けのパワーバランスも変わってくるのは容易に想像できる。

ポイントは、上記3つが数値化することが出来るという点。例えば、置換効果は「新製品を市場投入したとき、旧製品の売り上げがどの程度減るか」といったデータによって数値化できる。そのようにして、抜け駆けや能力格差についてもデータによって語られているため、曲がりなりにもエンジニアとして丸7年業をなしてきた筆者にとっては非常に分かりやすいアプローチ・説明であった。

また、検証方法については経済学的には以下3つのアプローチが主流。

  1. 回帰分析
  2. 対照実験
  3. シミュレーション

理系の皆さんにとっては特段説明することもないような3つであるが、 改めて気付かされた点だけをここにメモしておくと「回帰分析はあくまで2つの事象の相関関係を明らかにする統計学的手法であり、因果関係を明らかに出来る訳ではない」ということ。例えば、身長が高くなれば体重は重くなるという傾向(相関)はあるが、身長が高いから体重が重いかというと、必ずしもそうではない。実際には、体重を決める要素の1つに身長があるものの、他にも筋肉量や骨密度等、様々な要素によって体重は決まるものである。少し脱線したが、回帰分析の結果、相関が得られたことをいかにも「2つの事象に因果関係がある」の如く発言しているものをよく見るが、これには十分に注意すべきだと再認識した。

話を戻し、イノベーションについてのジレンマの経済学的解明の結論は、

  1. 既存企業は、いかに合理的であったとしても、旧事業と新事業の間に置換効果(共喰い)現象がある限り、新参企業ほどイノベーションには本気になれない。
  2. さらに、この共喰いを許容してイノベーションを推進出来たとしても、それが「企業価値最大化」という株主にとっての利益に反する場合もあり、企業にとって良いものとは限らない。

である(本記事は私の気になった点のメモ的なものなので、2つ目の論点じゃあどすべきかという点については、ぜひ本書をお読みいただければと思う)。

まさに既存企業のイノベーションと名の付く部署で働いている筆者にとっては、もっと現場目線での障壁を色々感じるところはあるのだが(例えば、既存事業との共喰いなんてそんな視座の高いことを意識しているのではなく…略)、視座や観点を変えて、あまり得意ではない経済学的な視点でのイノベーションの障壁について、3時間ほどでざっと知見を得ることが出来たのは良かった。

参考

本記事は、表題の書籍、「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明、を参考に読書メモとして作成しました。