オペアンプは,仮想短絡(イマジナリショート)を保持しようと動作する,すなわち反転入力端子と非反転入力端子を同電位に保持しようと動作する.(オペアンプの反転増幅回路・非反転増幅回路の動作を理解する - エンジニア知恵袋 ~チャンスくんをつかまえろ~)本記事では,オペアンプでなぜ仮想短絡が成立するのか,仮想短絡が成立する条件は何か,あるいはそこから成立しない条件についても考えてみる.
非反転増幅回路の仮想短絡の証明
オペアンプを使った回路を読み解く上で仮想短絡(イマジナリショート)の考え方は非常に重要である.ここでは,非反転増幅回路を例にとって,仮想短絡がなぜ成り立つのかを考えてみる.非反転増幅回路は,以下図に示すとおりである.
この回路をもう少し制御工学的な観点で見直してみる.非反転増幅回路は,フィードバックシステムとして以下のブロック図のように書くことができる(負帰還回路としてのブロック図は,非反転増幅回路に限らず反転増幅回路でも同じ).は入力電圧,は出力電圧,はオペアンプのゲイン(信号増幅率),はフィードバック要素における伝達関数である.
制御工学を一度は学んだことがある方は,この図を見たことがあるだろう.見たことない方も,「制御工学 フィードバック」なんて調べてみるとすぐに理解できると思う.さて,上図のような負帰還回路において,入出力関係は以下のように表すことができる.
一方で,オペアンプは反転入力端子と非反転入力端子の差動信号をゲイン倍(倍)する差動アンプであるので,
である(反転入力端子と非反転入力端子の電位差).上の二つの式を纏めると,以下のようになる.
この時,であれば,は限りなく小さくなるため,となる.これが,仮想短絡(イマジナリショート)である.
ちなみに,例えば非反転増幅回路におけるは,を二つの抵抗で分圧してフィードバックされているので,
である.
理想的な仮想短絡が成立する条件
仮想短絡の条件には,上述したようにが成立する必要がある(ループゲインが十分に大きい必要がある).これは,仮想短絡が成立するためには条件があることを意味しており,オペアンプを使えば必ず仮想短絡が成立しているわけではないということである.理想的な仮想短絡すなわちとなる前提条件は,
である.しかしながら,現実にはゲインは有限であるし,オペアンプの周波数帯域も有限であり,高周波になるに従ってゲインは低下する.よって,条件によっては仮想短絡が成立しないことがあるのである.
現実のオペアンプで仮想短絡が成立する条件と成立しない条件
改めて,オペアンプの仮想短絡が成立する条件は,次式のとおりである.
オペアンプの負帰還回路の信号入出力関係は,
で表されるので,の値によって信号の入出力関係は以下のように近似できる.
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すなわち,ループゲインが大きいとき(低周波領域)では,フィードバック回路の特性の特性のよって出力が決定され,ループゲインが小さいとき(高周波領域)では,オペアンプ単体の特性によって出力が決定されることになる.
例えば,非反転増幅回路では,前述したようにであるので,
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と,非反転増幅回路で見るいつもの式となる.
実際のオペアンプで,仮想短絡が成立し意図したフィードバック回路の特性を得れるかどうかを見極めるために重要な特性が,「GB積(利得帯域幅積)」というものである.反転増幅回路の場合にはこのGB積を超える範囲では仮想短絡が成立せず,非反転増幅回路ではGB積とフィードバック回路の特性によって決まるある周波数を超える範囲では仮想短絡が成立せず,ゲインが低下する現象が生じる.GB積について書き始めると長くなるので本記事では省略するが,まずは,高周波帯域では仮想短絡が成立せずゲインが低下する可能性がある,ということと,高周波領域で使用したい場合GB積というものが大きいオペアンプを選定する必要がある,ということを覚えておいてほしい.
参考文献
以下のページを参考にさせて頂きました.GB積について知りたい方はぜひ.